
バンジャール(地域共同体)|村を支える互助組織
バンジャール(地域共同体)|村を支える互助組織
冠婚葬祭を支える地縁組織。ガムラングループも寺院祭礼もバンジャールが運営する。
バリ社会を理解する上で最も重要なキーワードの一つが「バンジャール」です。これは、村よりも小さな、数十から数百世帯で構成される地縁に基づく地域共同体を指します。バリの男性は結婚すると自動的にバンジャールのメンバーとなり、その運営に責任を負います。バンジャールは、寺院祭礼(オダラン)の準備や運営、冠婚葬祭の相互扶助、地域の清掃や警備など、人々の生活のあらゆる側面を支えています。個人の喜びや悲しみを共同体全体で分かち合うこの互助組織は、バリ社会の秩序と強い絆を維持するための根幹をなす、まさに「社会の心臓部」と言える存在です。その機能は行政組織を補完し、時にはそれ以上の影響力を持っています。
バリ社会の基盤となる自治組織
バンジャールは、バリに住む人々にとって最も身近な社会単位です。各バンジャールには「バレ・バンジャール」と呼ばれる集会所があり、ここで定期的に会合(サンカップ)が開かれ、地域の課題や決定事項が話し合われます。メンバーである既婚男性の出席は義務であり、正当な理由なく欠席すると罰金が科されることもあります。議決は全会一致が原則で、リーダーである「クリアン・バンジャール」の進行のもと、全員が納得するまで徹底的に議論が交わされます。このように、バンジャールは非常に民主的な自治組織として機能しており、バリの人々の生活に深く根ざしたルールや慣習を守り伝えています。
誕生から死までを支える「ゴトン・ロヨン」
バンジャールの最も重要な役割は、「ゴトン・ロヨン」と呼ばれる相互扶助の精神の実践です。結婚式、歯削り儀式、そして特に多くの人手と費用が必要となる火葬式など、人生の重要な儀式は、バンジャールのメンバーが総出で手伝います。供物の準備、料理の炊き出し、ガムランの演奏、儀式の進行補助まで、あらゆる作業を分担して行います。これにより、個々の家庭の経済的・精神的な負担は大幅に軽減されます。誰かの家で祝い事があれば自分のことのように喜び、不幸があれば悲しみを分かち合う。この強固なセーフティネットがあるからこそ、バリの人々は安心して暮らすことができるのです。
宗教と芸術文化の担い手
バンジャールの活動は、社会的な相互扶助にとどまりません。宗教と芸術文化を維持し、発展させる中心的な担い手でもあります。各バンジャールは、それぞれが管理する寺院を持ち、その祭礼(オダラン)の企画・運営の一切を取り仕切ります。また、ほとんどのバンジャールは、独自のガムラン楽団や舞踊団を所有しており、祭礼での奉納演奏や、地域のイベントでのパフォーマンスを行います。子供たちは、バレ・バンジャールで年長者からガムランや踊りを習い、伝統文化を自然な形で継承していきます。バンジャールは、バリの信仰と芸術が生まれる土壌であり、その活気ある活動が「生きた文化」を支えているのです。




