
バリの伝統舞踊|レゴンダンスとバロンダンス
注目バリの伝統舞踊|レゴンダンスとバロンダンス
注目王宮文化と神話に育まれた古典舞踊。所作に込められた意味を読み解く。
バリ舞踊の中でも特に洗練され、優雅な動きで知られるレゴンダンスは、かつて王宮の娯楽として発展した宮廷舞踊です。神々への奉納舞踊が起源とされ、きらびやかな衣装と精緻なメイクを施した少女たちが、ガムランの複雑なリズムに合わせて繊細な物語を紡ぎます。指先のしなやかな動き、流れるような眼差しの一つひとつに意味が込められており、観る者を神話の世界へと誘います。一方、聖獣バロンが登場するバロンダンスは、善と悪の終わりなき闘いを描くダイナミックな舞踊劇です。レゴンが静的な美を表現するのに対し、バロンは善の力の象徴として力強く舞い、人々の信仰心と深く結びついています。これら二つの舞踊は、バリの精神文化を理解する上で欠かせない、対照的でありながらも相互に補完しあう芸術です。
宮廷で育まれた優雅なる舞「レゴン」
レゴンダンスの起源は、12世紀のジャワの宮廷にまで遡ると言われています。その後バリ島に伝わり、王宮の庇護のもとで洗練された芸術へと昇華しました。かつては、まだ初潮を迎えていない思春期の少女の中から、特に才能のある者が踊り子として選ばれ、厳しい訓練を受けました。彼女たちは「神の化身」とされ、宮廷内の神聖な儀式や王族の娯楽のために舞を披露したのです。その動きは極めて様式化されており、首や指先、目の動きに至るまで、すべてに定められた型が存在します。ガムランの繊細な音色と完璧にシンクロし、抽象的でありながらも豊かな感情を表現するレゴンは、バリ舞踊の最高傑作と称され、その優雅さと精神性は今なお多くの人々を魅了し続けています。
物語を紡ぐ繊細な所作の意味
レゴンダンスは、単なる美しい踊りではなく、古代インドの叙事詩「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」、あるいはジャワの王子パンジの物語などを題材にした舞踊劇です。中でも有名な演目が「ラッサム王の物語」です。これは、隣国のランケサリ姫に求婚を拒まれたラッサム王が、姫を力ずくで奪おうとし、最終的には姫の兄との戦いに敗れるという悲劇です。踊り手は、繊細な手の動きで感情の機微を、切れ長の眼差しで登場人物の意志の強さを表現します。観客は、言葉はなくとも、その洗練された所作から物語を読み解くことができます。ガムランの旋律が場面の転換や登場人物の心情を巧みに描き出し、踊りと音楽が一体となって壮大な物語空間を創り出すのです。
善の象徴「バロン」の力強い舞
バロンダンスは、善と悪の二元論的な世界観を表現するバリ・ヒンドゥーを代表する舞踊です。バロンは、森の王であり、善と秩序、人々の守護神とされる伝説上の聖獣です。その姿は、中国の獅子舞の影響を受けたと言われ、多くは赤ら顔に金色のたてがみを持ち、二人の踊り手によって操られます。物語は、バロンが邪悪な魔女ランダの軍勢と対決するところから始まります。バロンの動きは、時にコミカルでありながらも、悪を打ち払う神聖な力に満ちています。村の守り神として深く信仰されており、そのマスクは寺院に奉納され、儀式の際には特別な力が宿ると信じられています。バロンダンスは単なるエンターテインメントではなく、コミュニティの安寧を祈るための重要な儀式でもあるのです。





