
タマン・アユン寺院
タマン・アユン寺院
水堀に囲まれた王家の庭園寺院。メル塔の景観が印象的。
17世紀にメングウィ王家の国家寺院として創建されたタマン・アユンは、「美しい庭園」の名を持つ寺院です。水面に映る複数のメル(多重塔)が林立する景観は、バリ・ヒンドゥーの宇宙観における聖なる山「メール山」を地上に再現したもので、王国の安寧と繁栄を祈る中心地でした。バリの思想では、山から海へと流れる水の循環は生命と秩序の源とされ、寺院を囲む環濠(かんごう)は俗界と聖域を隔てる“浄めの境”として機能します。来訪者は外苑から順に内奥へ導かれ、鳥居状の割れ門や楼門、祈祷の場を経て中心部の塔群を仰ぎ見る構成になっており、聖なる世界へ段階的に近づいていく感覚を味わえます。2012年には、バリの伝統的な水利システム「スバック」を支える文化的景観の一部として世界遺産に登録されました。現在も地域の祭礼が行われ、歴史的景観が人々の生活のリズムと共鳴していることを実感できるでしょう。
歴史と王権の象徴
1634年の創建と伝わり、かつてバリ島中部で栄えたメングウィ王国の国家鎮護を祈る寺院として整備が進みました。広大な敷地と壮麗な建築は、王国の権威と繁栄を示す象徴であり、島内の主要な神々や祖先神をまとめて祀ることで、王国の求心力を高める役割も担っていました。19世紀にメングウィ王国が滅んだ後も、地域住民によって大切に維持され、バリ島で最も美しい寺院建築の一つとしてその姿を今に伝えています。その整然とした構成は、宇宙の秩序を地上に体現しようとした王家の思想を反映しています。
意匠と宇宙観
寺院は外苑(ニスタ・マンダラ)、中苑(マディヤ・マンダラ)、内苑(ウタマ・マンダラ)の三層構造で、聖性が最も高い内苑に行くほど土地が高くなるように設計されています。奇数段のメル塔は、祀られる神々の格式を象徴しており、一番奥にある最も高い11層のメルは、バリ・ヒンドゥーの最高神シヴァ神に捧げられたものです。庭園、水堀、塔群が一体となった構成は、神・人・自然の調和を重んじるバリ独自の思想「トリ・ヒタ・カラナ」を美しく表現しています。
見どころ(ここをチェック!)
内苑は信者以外立ち入り禁止ですが、周囲を囲む塀の外側をぐるりと一周できる通路があります。角度によってメル塔の重なり方が変わり、水堀との構図も変化して見飽きることがありません。特に夕刻、西日がメル塔を照らす時間は、塔のシルエットが水面に映り込み、幻想的な風景が広がります。また、中苑にある闘鶏用の東屋「バレ・ブングル」の鐘は、かつて村の集会や儀式の合図に使われたもの。その精巧な彫刻にも注目してみてください。




