
ルンダン
ルンダン
牛肉をココナッツミルクと香辛料で煮込んだ伝統料理。世界で最も美味しい料理と称されることも。
西スマトラ州のミナンカバウ族が誇る、世界で最も美味しい料理と称されたこともある、牛肉のスパイス煮込み「ルンダン(Rendang)」。ココナッツミルクと十数種類ものスパイスを使い、水分が完全になくなるまで数時間かけてじっくりと煮込むことで、牛肉は驚くほど柔らかく、旨味が凝縮されます。その味わいは、辛さ、甘さ、香ばしさが複雑に絡み合った、まさに芸術品。時間と手間を惜しまず作られるこの料理は、お祝いの席には欠かせない、インドネシア料理の最高峰の一つです。
ルンダンの歴史とミナンカバウ文化
ルンダンは、西スマトラを故郷とするミナンカバウ人の伝統料理です。彼らは商売や移住で長期間家を離れることが多く、その際の保存食として、水分を飛ばして日持ちするように作られたのがルンダンのはじまりと言われています。また、ルンダンにはミナンカバウの哲学が込められています。主要な4つの食材、すなわち牛肉(ニニッ・ママッ=部族の長)、ココナッツミルク(チュルディッ・パンダイ=知識人)、唐辛子(アリム・ウラマ=宗教指導者)、そしてスパイス(マシャラカット=社会全体)は、それぞれが社会を構成する重要な要素を象徴しており、これらが一体となって初めて完璧なルンダンが生まれる、と考えられているのです。
調理法:「カリオ」から「ルンダン」へ
ルンダンの調理過程は長く、忍耐を要します。牛肉とスパイス、ココナッツミルクを大きな鍋に入れ、絶えずかき混ぜながら煮詰めていきます。まだ液体がソース状で残っている段階は「カリオ(Kalio)」と呼ばれます。これはこれで美味しいカレーのような一品ですが、本物のルンダンを目指すには、さらに煮込みを続けます。やがてココナッツミルクの水分が蒸発し、油分が分離し始めます。この油で肉とスパイスを揚げるように炒め煮にすることで、色が濃い茶色に変わり、独特の香ばしい風味が生まれるのです。この最終段階を経て、ようやく長期保存が可能な「ドライ・ルンダン」が完成します。
味の決め手となるスパイス
ルンダンの複雑な味わいは、惜しみなく使われる多種多様なスパイスによって生み出されます。唐辛子、赤玉ねぎ、ニンニク、ショウガ、ガランガル、ウコンといった香味野菜をベースに、コリアンダー、クミン、ナツメグ、胡椒などの乾燥スパイスが加わります。さらに、レモングラス、ウコンの葉、コブミカンの葉、そしてタマリンドの酸味などが、爽やかさと香りの層を幾重にも重ねていきます。これらのスパイスが一体となり、ココナッツミルクのコクと牛肉の旨味と融合することで、一口では表現できないほど奥行きのある、魅惑的な風味が完成するのです。




